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┏┏┏┏ No.122/2007.1.11
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2007年初配信です。
本年もどうぞ宜しくお願いいたします。
今号では日頃のご愛顧に感謝しスタッフが「翻訳」をテーマに何事かを
語ります。
さて、「読んで得する」となりますでしょうか。
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■ 翻訳―新たな概念の紹介者
一人の「翻訳者」を紹介いたします。
それは内村祐之という人物です。野球に関する本を読んでいて偶然知り
得た人物です。
内村は精神科医です。双生児の研究や精神鑑定書の名著と呼ばれる「日
本の精神鑑定」(みすず書房)を監修するなどの業績を残しています。
世界大百科事典によると、それまで「精神病学」と言われていた用語に
「精神医学」という訳語をあてたのは内村だといいます。これは「精神
分裂病など狭義の精神病を対象とした医学」が、「人格障害や神経症な
どの軽い異常状態をも扱う医学」へ変化をとげた象徴的な出来事なのだ
そうです。
一方で、旧制一高、東大時代には左腕の快速球投手として内村は鳴らし
ました。その野球に関しても彼は画期的な功績を残しています。それは
川上巨人に多大な影響を与え、日本の野球を変えたといわれる「ドジャ
ーズの戦法」(アル・カンパニス著、昭和32年、ベースボールマガジ
ン社)の翻訳です。この本と出会い、川上哲治は〈チームプレー〉とい
うそれまでの日本球界にはなかった概念を知り、それをジャイアンツに
植え付けました。そしてついには西鉄稲尾に代表される大エースの獅子
奮迅の働きと4番打者の強打に頼った野球を終焉させたのです。
これは推測でしかないのですが、「ドジャーズの戦法」はベースボール
マガジン社が内村に翻訳を依頼したものではなく、翻訳出版自体、内村
が持ちかけたのではなかったでしょうか。
内村は精神科医として、野球人として、〈『翻訳』を通した新たな概念
の紹介者〉でした。
(青)
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■時代とともに変わる翻訳タイトル
昔、編集部にいたことがあります。入社したての頃、先輩たちの編集作
業をいろいろ手伝っていました。その時、大きい図書館に行って文学全
集の目次を写し、本文とあっているか確認してくる、という地味〜な作
業がありました。そのあとには、調査したデータを全部リスト化し、あ
れこれ並べ直してはいろいろチェックする、という、さらに地味な作業
がありました。そうして出来上がったのが「世界文学全集綜覧シリーズ」
です。この時携わったのは大正15年から刊行の始まった『世界文豪代表
作全集』から昭和59年頃までに刊行されたいろいろな世界文学全集の総
索引作りで、この時おびただしい数の作家名・作品名・翻訳者名を目に
することになりました。
この仕事をしていて、文学には興味のない私が面白いと思ったのは、タ
イトルの付け方や固有名詞の表記の仕方です。たとえば、「シャーロッ
ク・ホームズ」シリーズの中の“Red-Headed League”、今ではたいて
いの翻訳本に「赤毛組合」というタイトルで載っていますが、
昭和3年刊 改造社『世界大衆文学全集』(延原謙訳):赤髪聯盟
昭和36年刊 河出書房新社『世界文学全集』(阿部知二訳):赤髪連盟
昭和39年刊 東都書房『世界推理小説大系』(宇野利泰訳): 〃
昭和34年刊 平凡社『世界名作全集』(鈴木幸夫訳):赤毛連盟
昭和36年刊 中央公論社『世界推理名作全集』(田中西二郎訳):赤毛組合
となっていて、訳語や表記の変遷がみられます。「シャーロック・ホー
ムズ」も昭和3年の本では「シヤアロツク・ホウムズ」と書かれていて、
時代を感じます。
今では「赤毛」という言葉は別に珍しくありませんが(「赤毛のアン」
のおかげ?)、きっと初めて翻訳した人は「赤毛」という言葉を思いつ
かなかったんだろうなぁ、日本人の「黒髪」を「黒毛」とは言わないし
‥ などといろいろ想像します。
近頃は、翻訳書や外国映画のタイトルに原題をカタカナ表記にしただけ、
というものが増えています。もちろん、訳者やそれを読んだり観たりす
る現代日本人の感性が変わってきているからなのでしょうが、なんだか
違和感を感じるのは私だけでしょうか?
(み)
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■ 翻訳−ときにはお茶を飲んでブレイクしましょ
お正月休みも終わり、皆様、仕事に勉強に精を出されていることと思い
ます。軌道に乗って、事が順調に進むと、今年1年頑張れそうな気がし
ます。
でも、365日の間には、たまには足踏みしてしまうこともあるのではな
いでしょうか。そんなとき、他の方々のお仕事ぶりを見聞きすると、次
のステップへのヒントを得られることもあります。そこで、ヒントの詰
まったサイトや書籍を下記にご紹介します。お茶を飲みながら、ちょっ
と読んでみませんか。
◇出版翻訳データベース
http://www.trs-data.com/
手作り感のある出版翻訳者向けサイトです。
「インタビューコーナー」では、ベストセラー本の裏話をうかがい知る
こともできます。
◇通訳翻訳WEB
http://www.tsuhon.jp/
イカロス出版「通訳翻訳ジャーナル」のWebsiteです。
「翻訳者リレーエッセイ」の「千里の道も一歩から」では、翻訳者にな
られた皆さんの涙ぐましい努力に敬服し、「通訳メモランダム」では、
現場の緊迫感に身の引き締まる思いがします。
◇英語トランス
http://www.eigotrans.com/
これから翻訳を始める人向けのサイトですが、「今週のつぶやき」では、
翻訳通訳に関する最新情報がさりげなく紹介されています。毎週月曜日
に更新されるようです。
◇『翻訳家の仕事』(岩波書店編集部編)
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn0612/sin_k334.html
30数名の翻訳家の方々がお仕事を熱く語ってくださいます。
翻訳には調査が欠かせません。調べもののヒントをいただけそうです。
(色)
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■ 私的翻訳の顛末!?
その昔、ボクは、とある大学の英文学専攻の学生だった。20名の同級生
のうち、男子は僅か3人。でも、その3人が連日研究室に入り浸り、煙草
の(文字通り) 煙幕を張って英文研究室をわが物顔に牛耳っていた。
3年になると卒論に向けて研究テーマが定まってくる。シェークスピア、
ディケンズ、ロレンス、ヘミングウェイなど、大方の女子は有名作家を
選択したが、ボクが選んだのはイブリン・ウォー(1903-66)。英国で
は、夏目漱石クラスの大作家だが、当時の日本ではあまり知られておら
ず、前人の研究文献(邦文)も意外と少ない。指導教官からは「県下で
ウォーをやっているのは君ぐらいだろう」と言われ、“選ばれし者の恍
惚と不安”をニンマリと噛みしめた。“牛後”となるよりも“鶏口”が
よかろう、という若者特有のアサハカサである。
が、何しろ作品の翻訳書が少ないのは大きなハンデである。故吉田茂首
相のご子息である吉田健一氏が訳した代表作『ブライヅヘッドふたたび』
は古書店で入手できたが、処女作“Decline and Fall”(1928) は原書
のみ。ならば、自分で翻訳してやろうと思い立った。若気の至りである。
原書講読の感覚で、辞書と文法書を繰ってどうにかなるだろうと楽観し
ていたら、これが大間違い。文芸翻訳は、外国の歴史的文化的背景をき
ちんと把握し、“自然”な日本語に置き換える必要があるのだ。英国の
パブリックスクール出身の主人公が運命に翻弄されて落ちぶれていく姿
を滑稽に描いた小説だが、英国における「パブリックスクール」や上流
階級の風俗がよくわからない。結局、異文化の壁に圧倒され、2/3 ほど
翻訳したところで敢えなくギブアップした。読み進めてもあまり面白く
なく、翻訳作業が苦行と化した。酒飲みは最初に吐くまで飲んで、自分
の酒量を見極めるというが、己の翻訳センス(語学力+調査能力)の限
界を痛感した瞬間であった。
その時に思ったのが、外国の文芸作品に描かれる建物や身の回りの小物
などをビジュアル的にパッと確認できる事典があればなあ、ということ。
たとえば、ロシア文学を読んでいるとよく出てくるサモアール。「喫茶
用の湯沸かし器」という注記はあっても、具体的に現物がどんなものだ
かピンと来ない。それが今では Google のイメージ検索で簡単に調べが
つくので、いい時代になったもんだなあとつくづく思う。
そう言えば、ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』には「ヴィジュ
アル愛蔵版」があり、作中に登場する美術作品や建物、場所、象徴など
140点を収録している。こういう補足的出版物もアリかな。
(竹)
【注】
“Decline and Fall”は、「大転落」「ポール・ペニフェザーの冒険」
「衰亡記」として翻訳されています。ブラック・ユーモア(風刺)とド
タバタ・ギャグに溢れる逸品です。
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