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■ 地理的感覚について 田村洋一
■ 電子辞書SHOPからのお知らせ
■ ボビーが胴上げされて思ったこと
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■ 地理的感覚について 田村洋一
●「南アジア」とは?
国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)が「World Disasters Report 2005」
の中で2004年の世界の自然災害による死者数が25万人を越えたと発表し
た直後の2005年10月8日、カシミールでM7.6という大地震が発生し、大
きな被害が出ています。2週間後の10月22日現在も被害の全容は正確に
は把握されていません。被災地が尾根筋の入り組んだ急峻な山岳地帯で、
土砂崩れのため交通が完全に遮断されてしまったためです。国連の救援
責任者は「あの津波を上回る物資補給の悪夢だ」と悲鳴を上げています。
ヘリコプターが到達できない場所へは山道をロバで運ぶしかないのです。
判明している死者は約7万9千人、家を失った人は330万人、孤立して救
援困難な集落1万5千個所、という数字が発表されています。2週間に
750回以上の余震が続き、雪の季節が近づく中で状況が懸念されます。
さて、今回のテーマは地震そのものではなく、その被災地の場所につ
いてです。最初に BBC のニュースを耳にしたとき「South Asia で大地
震」と言っているので、私は「またインドネシア?」と思ったのですが、
これがカシミールとわかり何か釈然としない印象を受けました。ここは
「南アジア」なのでしょうか。震源地を米地質調査所(USGS)のサイトで
確認すると北緯35度、東経74度の辺りで、これは広島市や堺市とほぼ同
じ緯度になります。ヒマラヤ山脈のさらに北西に連なるカラコルム山脈
の外縁部で、山好きの人ならよくご存知の魔の山「ナンガ・パルバット」
(Nanga Parbat:8125m)の西100kmほどのところです。このカシミールは
インドとパキスタンの最北部一帯で、東は中国のシンチアンウイグル自
治区、北はタジキスタンのパミール高原、西はアフガニスタンです。
私の感覚では「南」とは思えません。「中央アジアの南だから」という
意味なのか?
実は「South Asia」という表現は英国の植民地統治、すなわち1878年
から1948年までの「British Raj」の遺物です。該当する地域は「インド
亜大陸」(Indian subcontinent)に等しく、具体的にはインド、パキスタ
ン、バングラデシュ、スリランカの4ヶ国で、これにネパールとブータン
を含める場合もあります。歴史的には「Greater India」(大インド圏)と
も呼ばれる地域ですが、明確な地理的区分ではないので、歴史的文脈を
無視して単に「南アジア」と訳すと誤解される恐れがあります。唐突で
すが、シャーロック・ホームズの相棒であるワトソン医師は、インドに
従軍しアフガン戦線から負傷帰還したことになっています。コナン・ド
イルがホームズ・シリーズを書いたのは19世紀ですから、どんな表現を
しているのか確かめることにしました。シリーズ第1作の長編「緋色の
研究」(A study in scarlet:1887)の冒頭にワトソンが自分の略歴を書
いており、Bombay や Peshawar などのインドの地名が出てくるのですが
「South Asia」は見当たりません。探偵小説に使うには抽象的で硬すぎ
る表現だったのかもしれません。
●「中南米」を同時に襲うハリケーン?
この地震と前後してカリブ海ではハリケーンの被害もありました。
CATV ニュース局の一つ「朝日ニュースター」で「中南米でハリケーンの
大被害」と言うのを聞いて、またビックリです。南米でも最北部のベネ
ズエラやコロンビアなどはハリケーン被害にあう可能性はありますが、
今回そんな情報は聞いていなかったからです。調べてみると、台風レベ
ルの熱帯性暴風(tropical storm)「Stan」による洪水と土砂崩れでグア
テマラやエル・サルバドルなど中央アメリカ(中米)6ヶ国で610人以上が
亡くなり、多くの家屋が失われたということでした。つまり「南米」は
関係ないのです。
この間違いは「ラテンアメリカ」のつもりで「中南米」と言ったとこ
ろにあります。ラテンアメリカはメキシコ以南の旧スペイン領、ポルト
ガル領諸国、およびカリブ海の島国を指す歴史的、文化的な総称です。
一方、地理的な区分は「北アメリカ(北米)」と「南アメリカ(南米)」で、
その境界はパナマ地峡(Isthmus of Panama)です。「中米」とは北米のラ
テンアメリカ諸国を指す便宜的な呼称です。このニュースでは「中米」
を使うべきでした。ラテンアメリカ諸国がどこにあるのか定かでない人
は珍しくありません。おそらく日本では、植民地時代の知識が乏しいま
まに「ラテンアメリカ音楽」というジャンル(私も大好きですが)を通じ
て知っているだけの人が多いのではないでしょうか。例えば、「ベリー
ズ」という国がどこにあるか知っている人は少数でしょう。2005年10月
21日は「トラファルガー海戦」200周年ですが、この戦いもカリブ海の制
海権と無縁ではありません。
●地理的感覚を養うには?
私たち翻訳に関わる者は、平面の世界地図ではなく、地球儀が頭に入
っていると便利です。とは言うものの、地理の苦手な人もいるので、
一つヒントを差し上げます。赤道と北緯40度線がどこを通っているか覚
えておくことです。
試しに北緯40度線を日本から西回りにたどってみましょう。今は干拓
地になってしまった秋田県の「八郎潟」が出発点。ここは北緯40度、
東経140度という覚えやすい場所です。日本海から朝鮮半島北端のハム
フンに上陸、北朝鮮と中国の国境を流れる鴨緑江(ヤールー川)の河口を
かすめ、北京から「万里の長城」と黄河の大湾曲部を越えて内モンゴル
の広大な砂漠を抜け、シルクロードのカシュガルへ。中央アジアのキル
ギスに入り、ウズベキスタンのサマルカンドを通り、油田のあるバクー
の南でカスピ海を横断し、イラン西北端のアルメニア国境をかすめ、ト
ルコを東端のアララト山(ノアの方舟伝説の山、5165m)からアンカラ経由
で西岸のトロイ遺跡まで横断。エーゲ海からギリシャ北部に上陸し、マ
ケドニア地方とアルバニアの国境をかすめ、アドリア海を飛び越えてイ
タリアの「ブーツのかかと」を横切り、西岸のナポリの南を通過し地中
海のサルデーニャ島を横断。マジョルカ島の北をかすめてイベリア半島
の真ん中、スペイン東岸のカステリョデラプラナ(ここは経度0度)に上陸。
マドリードの南、トレド、ポルトガルの古都コインブラを通り、アゾレ
ス諸島をかすめながら大西洋を渡って北米へ。東海岸のニューヨークと
ワシントンの中間にあるフィラデルフィアを通過。そこからコロンバス、
インディアナポリス、デンバー、リノと米国本土のほぼ中央を4000kmほ
ど横断し、カリフォルニア州北部の森林地帯「Redwood National Park」
の南で太平洋に出ます。そこから日本まではひたすら海の上です。お疲
れさまでした。
●参考
・World Disaster Report 2005 (IFRC)
http://www.ifrc.org/publicat/wdr2005/index.asp
・Hurricane FAQ (Atlantic Oceanographic and Meteorological Laboratory)
http://www.aoml.noaa.gov/hrd/tcfaq/tcfaqHED.html
【著者プロフィール】
田村 洋一(たむら・よういち)
東京生まれ。幼稚園に入る前からFENを聴いて育った生粋のビートル
ズ世代。SEとして日米のコンピュータ会社に勤務し業界の栄枯盛衰を
目の当たりにしてきた。現在はフリーの翻訳者、編集者。自分の眼を
信じる美術愛好家でもある。
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■ 電子辞書SHOPからのお知らせ
★「翻訳祭」へのご来場ありがとうございました
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10月18日(火)に大阪で行われたJTF「翻訳祭」、多くの方々においで
いただき、ありがとうございました。
当日会場でお配りした特別注文書は期限が10月末までとなっておりま
すが、多少期限を過ぎてもお受けいたしますので、是非ご利用下さい。
★読書の秋に、改めて。
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以前日外アソシエーツから刊行した“翻訳に関する書籍”、読書の秋
にあわせ紹介文をどう書こうか考えていました。でも、このメールマ
ガジンのバックナンバーを読んだら、下手な前ふりはやめようという
気になりました。既にお読みいただいた方も、昔のものは未読、とい
う方も、是非目を通してみてください。
読んで得する翻訳情報マガジン No.7(2001.7.3)
山岡洋一が怒る 翻訳は簡単な仕事じゃないんだ
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読んで得する翻訳情報マガジン No.29(2003.5.12)
読んで得する翻訳情報マガジン No.30(2003.6.9)
「英和翻訳の原理・技法」レビュー
http://www.nichigai.co.jp/translator/mail_mag/mail029.html
http://www.nichigai.co.jp/translator/mail_mag/mail030.html
◆「英和翻訳の原理・技法」
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◆「ザ・ベストセラー1985〜2004」日外アソシエーツ編
2005年10月刊行 定価2,500円(税込)
1985年から2004年までのベストセラー約2000点を分野別に一覧でき
るガイドブック。出版科学研究所等6機関の調査によるデータを使
っています。
付録の「各年ベストセラー・ランキング表」を見ていくと、当時の
社会・世相がよみがえってきますが、翻訳書に注目するとまず目に
つくのがこの本。
「アイアコッカ―わが闘争の経営」
リー・アイアコッカ著,徳岡孝夫訳 ダイヤモンド社
1985年の総合ランキング上位に入っています。そういえばこの名前、
雑誌などでもさんざん目にした記憶が‥ その後アイアコッカ氏は
どうされているでしょう?
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◆ 日外アソシエーツ創業40周年特別企画講演会 ◆
11/11(金)14:00-15:00 トーハン大阪支店
「ユビキタスネット社会のなかの図書館」
(昭和女子大学教授・大串 夏身 氏)
11/16(水)13:30-14:30 博多スターレーン展示会場
「ゆりかごから墓場まで−生涯の知的生活を
保障する魅力ある図書館を目ざして」
(駿河台大学教授・戸田 光昭 氏)
入場無料です。興味のある方はぜひお申込みください。詳細はこちら
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■ ボビーが胴上げされて思ったこと
千葉ロッテマリーンズが日本一となりました。
さて、プロ野球では、優勝すると選手達がマウンド付近に集まり、監督
の胴上げというのを行います。
いつ、どこで、誰が始めたのか知りませんが、そういうことになってお
ります。
で、プレーオフ優勝時のことです。家内と二人でニュースを見ていると、
ボビー・バレンタイン監督が気持ちよさそうに宙に舞っています。
その時、家内が何気ない一言をもらしました。
「アメリカでも胴上げってするの?」
「ん?ん?んんん?」
そういえば、外国のスポーツ中継で「胴上げ」というのは見たことがな
いような気がします。
「いやぁそれはないな。何しろあいつらは重いから」
と、いつものようにその場しのぎの言い訳をかまし逃げた私ですが、
むくむくと普段は決してめばえない探求心が湧き上がりました。
というわけで、
海外でも胴上げはあるのか?もしくは英語でなんというのか?
早速、当メルマガでお馴染みの、田村洋一さん、山本ゆうじさん、
北田敬子さんに伺いました。
現在、三氏と侃々諤々、事態は民族学的、仏教学的方向にも流れつつ
やりとりは続いております。
その様子は次号でご紹介いたします。どうぞお楽しみに。
(青)
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