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■ 翻訳読書ノート14                  北田敬子
■ 「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その17)       山本ゆうじ
■ 翻訳校閲者の7つの仕事(上)             田村洋一
■ 翻訳業界雑記 第8回                 吉野 陽
■ 電子辞書SHOPからのお知らせ
■ O.E.D.を引こう!   <spoil>
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営業マンの青木です。

北田敬子さんの「翻訳読書ノート」は、“翻訳書の書評”ということで、
これまでは英語(もしくはそれ以外の言語)から日本語に翻訳された本
の紹介がメインでした。
しかし、今回はちょっと趣向を変え、日本語から外国語に翻訳された作
品はどんなもんなんだ、あるいは海外での評価は如何に、という視点で
書いて頂きました。

で、どうだったのか・・・。詳しくは↓をご覧下さい。


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■ 翻訳読書ノート14                  北田敬子

「日本と世界の距離」

村上龍の『イン ザ・ミソスープ』英文版(ラルフ・マッカーシー訳 講談
社インターナショナル 2003)を読んだ。今夏の映画公開を前に新装(日本
語)版が店頭を賑わす『69 sixty-nine』で大いに笑った後だった。切なく
も輝かしい1969年の佐世保から、一気に30年後の新宿歌舞伎町の夜へ。
長崎弁から無国籍英語へ。片や<笑い>、片や<サイコ・スリラー>と
手法は違っても、作者が読み手を惹きつける強烈な力業は通底している。

海外の読者にはどのように受け止められているのかネット検索してみると
『イン ザ・ミソスープ』英文版は世界中の1224作品を批評するサイト、
“the Complete Review”(http://www.complete-review.com/main/main.html)
では「発想の妙はあるが筋立ては荒唐無稽」として酷評(ランクB-)されて
いる。またそこから辿れるいくつかの新聞書評欄では賛否相半ばしている
のが分かる。いずれも従来の歴史・伝統を色濃く伝える日本作品にはない
世相・風俗への大胆な切り込みには快哉を送りつつ、提示されるビジョン
がニヒルで空疎だと失望を述べてもいる。同姓だが無縁のハルキ・ムラカ
ミとリュウが如何に異なるかを解説するものもある。全面的賞賛にはほど
遠くとも、紛れもない同時代の作品として率直な反応を引き起こしている
ことは確かだ。

『イン ザ・ミソスープ』に描かれる「内にこもる日本」がFrankという他
者に象徴される「外気」に触れた時の脆弱さや、Kenji という言語・文化
の仲介者を通して検証される様を英語でたどると、この汚辱の中にわが国
の現実がよく凝縮されていると感じる。英語版には翻訳不可能な日本語が
多数混じる。Bon-no(煩悩)論争を始め、日本語をそのままに投げつける
不敵さは、他国の読者に相当不可解なインパクトを与えるのではないだろ
うか。ただ「味噌汁」のなんたるかも知らない人々には、この題名の含意
が伝わるかどうか怪しい。しかしいつもながら現実世界での驚愕すべき事
件の数々が既に村上作品の中にあったことを思うにつけ、そもそも歌舞伎
町に日本の表象を読み解こうとするこの作家には日本と世界の距離を超え
ていく軽快さを感じる。海外での忌憚ない批評に晒されることから日本の
小説が鍛えられるだろうことは間違いない。


【著者プロフィール】
 北田 敬子(きただ・けいこ)
 東洋学園大学・現代経営学部教授
 東京女子大学英文科卒業後、東京都立大学修士課程英文学専攻修了。
 バージニア大学教育学部にて在外研究。
 専門は英語文学、言語とコミュニケーション
 ホームページURL http://www.kitada.com/keiko/


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■「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その17)
                                                      山本ゆうじ

翻訳ソフトは「用語適用ツール」

 おそらく、みなさんのほとんどは、業務用翻訳ソフトをお使いではな
いと思います。また以前は使っていたが、使用を断念したという方もい
らっしゃるのではないでしょうか。

 業務用翻訳ソフトとは、消費者向けの翻訳ソフトに対して、LogoVista
(ロゴヴィスタ)、The 翻訳(東芝)、PC-Transer(クロスランゲージ)、
ATLAS(富士通)などの「対訳編集を前提にした翻訳ソフト」を指します。
翻訳者が翻訳ソフトを使うのは、「用語の自動適用ツール」として、効
率を上げ品質を向上するためです。たとえばA社の仕様と指定用語1000語
で翻訳した後で、似ていても微妙に違うB社の仕様と指定用語1500語で2
週間翻訳するとしましょう。その次の日にはまたA社の用語で翻訳すると
いった場合、何も工夫をしないと、少々気をつけたぐらいでは仕様や用
語を取り違えてしまいます。翻訳会社やクライアント、チェッカーや他
の翻訳者がその間違いを訂正することになります。ミスが残れば、その
翻訳を読まされるユーザーも混乱します。このような場合でも、翻訳ソ
フトを使えば、確実にすべての用語を適用し、仕様をきっちり守ること
ができます。

 翻訳ソフトで「最初から最後まで自動で翻訳できる」という過剰な期
待は禁物です。というより、翻訳者が使う場合、業務用翻訳ソフトは全
自動で使うものではありません。翻訳サイトや消費者向け翻訳ソフトの
ように、「ボタンを1つ押しておしまい」ではないのです。

 翻訳者は、翻訳ソフトを使うワークフローのすべてを完全に掌握し、
自分の予想通りの訳文が得られるようにする必要があります。このため
には、適切なユーザー辞書の構築と設定、また翻訳ソフトの癖を補正す
る外部的な整形フィルタやその他のツールが必要です。このような作業
を、翻訳ソフトワークフローを「プログラミングする」と表現すること
ができます。これは単なる比喩ではなく、翻訳ソフトの問題点を補うた
めに、実際にWSHスクリプトやVBAマクロを作成して行う自動化が必須と
なります。ここでは、翻訳者の意思(すなわち適切な単語や表現の選択)
を可能な限り正確に反映し、最小限の修正で完全な訳文にすることを目
指します。このようにして作成された高品質な訳文からは、翻訳ソフト
を使ったということはまったく判断できません。ただ翻訳ソフトを使わ
ない場合に比べて訳抜けやミスが非常に少なく、また効率的に作業でき
るという点が違います。逆に言えば、翻訳ソフトを使ったことが分かる
ような訳文では困ります。適切なユーザー辞書、正しい設定、外部フィ
ルタ、そして翻訳者による徹底的な確認のすべてがそろって、はじめて
自然な訳文を効率的に作成することができます。

 ただし、翻訳ソフトをうまく使いこなすには、原文を見て頭の中だけ
で訳文を構築し、翻訳ソフトの誤りを完全に指摘できる、最低でもTOEIC
850以上の英語能力と、翻訳ソフトより常に自然な訳文を作れる実務経験
3年以上の翻訳能力、それに加えて Word、Excel、エディタを自由自在に
組み合わせてユーザー辞書、マクロ、フィルタを作成できる高度なパソ
コン技能が求められます。

 今後数回にわたって、翻訳ソフトについてさらにご紹介します。ご質
問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、tran@nichigai.co.jp
までどうぞ。


【著者プロフィール】
 山本 ゆうじ(やまもと・ゆうじ)
 フリーランス実務翻訳者。国際学校 UWC イギリス校で二年間学び、
 筑波大学を経て、シカゴ大学人文学修士号を取得。
 日英仏語で、美学・比較文学・芸術学・文章技法などを学ぶ。

 transPC  【実務翻訳】	 http://transpc.cosmoshouse.com/
 秋桜舎  【文芸談義/文芸翻訳】http://cosmoshouse.com/
『世界に通じる学校――国際学校UWCの異文化理解教育』発売開始

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 翻訳作業の生産性を向上する、即戦力となる6つの実践的技能(◇PC内
 の情報管理◇インターネット検索◇音声/キーボード入力◇メモ取り◇
 Officeとエディタ◇PDF活用)を、有機的に組み合わせ、体系的に解説
 します。今回のコラムでもご紹介した、最終的に翻訳ソフトを使いこ
 なすための高度なパソコン技能を身につけることを目指します。


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■翻訳校閲者の7つの仕事(上)              田村洋一

 翻訳者が納品する翻訳原稿は、何らかの形で編集者のチェックを経て
出版されます。今回は、このチェックのプロセスについて少し考えてみ
ましょう。このテーマは吉野さんの「翻訳業界雑記」と重複するのです
が、私は翻訳者の立場からコメントを加えるということでご了解いただ
きたいと思います。ちなみに、私は編集者と翻訳者の両方を経験してい
ます。

 先ほど「編集者」と書きましたが、実際には編集責任者の下に「レビ
ューワ」とか「チェッカー」とか呼ばれるスタッフがいます。私の認識
では、「レビューワ」は訳文全体の妥当性を評価する校閲者であり、
「チェッカー」は特定の観点から訳文を査読する校正者と考えています。
ただ、あまり厳密に区別しても話がこみ入るため、ここでは「校閲者」
という表現で代表させることにします。基本的には英文和訳を想定して
います。

 では翻訳校閲の中身を容易な順に並べて見ましょう。全部で7つあり
ます。

1)一般的な表記ミスの校正:
 これは翻訳ではない日本語の原稿の校正と同じで、明らかな誤字、脱
字のチェックです。

2)表記原則の校正:
 プロジェクト固有の表記原則が守られているかどうかのチェックです。
文中に含まれる約物(記号)は半角か全角か? その前後には半角スペース
が必要か? カタカナ語の区切り方は? カタカナ語の末尾の長音符は省
略するのか? コロンの扱いは? 引用符の扱いは? 段落の行頭は字下げ
するのか? 等々。
 翻訳者の立場から見れば、この表記原則の遵守は大変煩わしいものです。
というのは、プロジェクトあるいは翻訳会社により細部が異なるからです。
中には世間一般の慣習に反する規定もあります。また日本語の入力作業
の流れが途切れるため、作業の能率が落ちます。翻訳者が専属なら環境
設定や慣れの問題ですが、複数の会社の仕事をしていると(特に急いでい
る時など)うっかりミスが増えます。このような翻訳作業の中核ではない、
割り付け(レイアウト)作業の一部とも言える部分、ある意味ではcosmetic
とも言える規則を守ることに神経を使うのはつらい…というのが翻訳者
の本音です。
 ITの時代に手作業というのも疑問を感じます。技術的には、全て全角
のベタ打ちでも、比較的簡単なソフトウェア(フィルタ)によるテキスト
加工処理で自動化(正規化)できる部分は多いと思われます。お互いにメ
リットがあるわけで、翻訳会社(あるいはクライアント)の側でも検討し
ていただきたいところです。

3)固有名詞の校正:
 IT関係では毎日のように新語が生まれており、初出の訳語の問題は避
けて通れません。ニュースの翻訳では初出の人名や会社名のカナ表記が
難問です。ニュースサイトの中には人名は原文表記という方針を貫くと
ころもあります。これは工数削減という点で一つの見識ですが、英語以
外では難しいでしょう。現に、中国語の人名では漢字あり、カナありで
徹底できていません。これに関連しますが、私は英語文献に出てくる中
国の地名の漢字表記を確認するのに苦労したことがあります。
 新しく登場した固有名詞のカナ表記には多少の「ゆれ」があり、それ
は時間をかけて固定化していきます。しかし、少なくとも、ある翻訳プ
ロジェクト内での一貫性は維持しなければなりません。
 翻訳会社は独自のツールを用意しているようですが、もう少し公開版
のツールが充実してもよさそうな気がしています。例えば電子辞書『リ
ーダーズ』の増補版(アドオン)として発売されれば商品性もあると思う
のですが。

4)専門用語の校正:
 「実務翻訳」で特に顕著な問題です。この校正作業は"TRADOS"のよう
な翻訳支援ツールを利用して、できるだけ回避したいところですが、ご
く平凡な単語が特別の意味で用いられたりすることがあるので、文脈の
中での解釈が妥当かどうかもチェックしなければなりません。専門用語
が正確に訳されているかという観点と、誤用されていないかという二つ
の観点があります。この校正作業にあたる校閲者には翻訳者と同等以上
の専門知識が必要です。
 また、翻訳者からフィードバックされる疑問や提案は用語集の更新の
参考になります。

                         (※次回に続く)


【著者プロフィール】
 田村 洋一(たむら・よういち)
 東京生まれ。幼稚園に入る前からFENを聴いて育った生粋のビートルズ
 世代。SEとして日米のコンピュータ会社に勤務し業界の栄枯盛衰を目
 の当たりにしてきた。現在はフリーの翻訳者、編集者。自分の眼を信
 じる美術愛好家でもある。


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■ 翻訳業界雑記 

第8回 最近の翻訳案件                  吉野 陽

最近寄せられる翻訳の求人には、今までとは少し毛色の違う案件が増え
てきています。

例えば希少言語の翻訳。中国語や韓国語は以前から増えてきていました
が、スペイン語やフランス語やドイツ語、つい先日はカンボジア語の案
件も寄せられました。このような案件の中には、書籍のリーディングや
絵本の翻訳などもあり、実務翻訳に限らず、出版や映像の翻訳でも同様
の傾向があるようです。

また英日、日英翻訳に関しては、美術館の解説文(日英)、オンライン
ゲーム(英日)、航海関連(英日、日英)など、特殊な分野の案件が増
えてきています。

希少言語の翻訳や特殊な分野の案件は競争率も低くなるため応募から受
注に繋がる可能性が通常の案件に比べて高くなるようです。また希少言
語の翻訳の場合、対応できる翻訳者を見つけることが難しいため、一度
受注するとその後もリピート発注される可能性も高くなります。希少言
語の翻訳や得意分野を多くつくっておくと仕事の幅がさらに広がるよう
です。

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■ O.E.D.を引こう!   <spoil>

前回、金子みすゞ(1903-1930)の童謡詩を英訳した作品を再びご紹介
したところ、ある読者の方から興味深いお便りをいただきました。


 さびしいとき

  私がさびしいときに、
  よその人は知らないの。

  私がさびしいときに、
  お友だちは笑うの。

  私がさびしいときに、
  お母さんはやさしいの。

  私がさびしいときに、
  仏さまはさびしいの。


 The Sad Times

  When I'm feeling sad
  Strangers don't know.

  When I'm feeling sad
  My freinds all laugh

  When I'm feeling sad
  Mama spoils me.

  When I'm feeling sad
  Buddha feels sad.


               『金子みすゞ童謡集 Something Nice』
            D. P. ダッチャー訳 1999.6 JULA出版局刊


三連目の「やさしい」というポジティブな言葉に対して「spoil」という
ネガティブな言葉はそぐわないのではないかというご意見です。私など
「上手い言い回しだなあ」ぐらいであまり気にも留めませんでしたが、
ここに違和感を覚える方は少なくないようです。

spoil は元々ラテン語の spolium(動物から剥いだ皮)から来ており、
「敵から奪い取ったもの」→「奪う」→「台なしにする」という今日的
意味合いに変遷していったようです(ジーニアス英和大辞典より)。
OEDの説明では、こうなっています↓。

spoil, v.
 There are striking gaps in the continuity of some of the earlier
 senses (cf. the n.)

 1.  a. trans. To strip or despoil (a dead or helpless person);
 esp. to strip (a defeated or slain enemy) of arms and armour.
 ―中略―
 13. a. To injure in respect of character, esp. by over-indulgence
 or undue lenience. Also, in weakened sense, to treat with excessive
 consideration or kindness.

 1694 Congreve Double-Dealer iii. iii, I swear, my dear, you'll
 spoil that child. 

13 の意味の初出例は、1694年ウィリアム・コングリーヴ(1670-1729)
の風習喜劇「The Double-Dealer(二枚舌の男)」ですね。余談ですが、
コングリーヴのあの名言も「leisure」の項↓に出ていました。

 1687 Congreve Old Bach. v. i. (1693) 50 Marry'd in Haste, we may
 repent at leisure.(人は急いで結婚し、暇になってから後悔する)


確かに「sopil」は「甘やかす、駄目にする」など否定的なニュアンスを
伴う強い言葉です。日本語の「やさしい」とは逐語訳的に対置され得る
言葉ではないでしょう。

しかしながら、ここでダッチャーさん(1944- )は「やさしい」という
日本語を単に読み誤ったというよりも、確信的に「spoil」を使ったので
はないかと思うのです。それは、その後に続く Buddha の「sad」をより
一層際立たせているのではないでしょうか。

子供の視点からすれば、「さびしい」と「やさしい」には大きな気持ち
のズレがあります。「さびしさ」を埋めるのは「やさしさ」ではないと
いうジレンマが spoil には託されているような気がします。

ここに、たまたま同じ詩を英訳したものがもう一編あります。昭和44年
より4年間、日本テレビ「ロンパールーム」のお姉さんだった「よしだ
みどり」さんの訳です。

 When I'm lonely.

  When I'm lonely,
  nobody else can tell.

  When I'm lonely,
  my friends laugh.

  When I'm lonely,
  my mother is kind.

  When I'm lonely,
  Buddha is also lonely.


     <よしだみどり訳『睫毛の虹』1995 JULA出版局刊>


こちらは素直に日本語を英語に置き換えた直訳風ですね。元が童謡だけ
に平易な英語を心がけたのでしょうか、耳に柔らかく、あたかも流行歌
のフレーズのようです。

この2つの英訳詩を提示して、英文学の研究職にある友人に率直な感想
を求めてみたところ、彼は「When I'm lonely.」の方はネイティブの訳
ではないだろうと直感的に見抜きました。全体的に強い言い回しがなく、
「優しいパステル画を観ている」ような感じだそうです。

一方、「The Sad Times」の方は、「言葉の使い方がシャープで印象的」
だそうです。各連のコントラストもしっかりと強調してあるため「全体
にリズムがある」ように感じられるとか。そう言えば、ダッチャーさん
の英訳本には、訳者自らの肉声による朗読CDが付属しています。きっと
声に出して読まれることを念頭に置いた翻訳なのでしょう。

私が2つの英訳詩を通して思うのは、みすゞの使う「やさしい」という
言葉の奥深さです。この「やさしい」は「kind」の意味も「spoil」の
意味も包括するファジーな感情なんでしょうね、きっと。positive か
negative かという欧米二元論的な捉え方を軽々と超越する、英訳不能
の日本語表現と言えるのかもしれません。


文芸翻訳、特に詩の翻訳では、翻訳者自身のセンス(詩心)が問われる
のではないでしょうか。原文と格闘し、その匂いや原作者の思いをどれ
だけ精確に汲み取り、自国語に再構築できるか。ダッチャー訳にはその
格闘の痕が垣間見られるような気がします。

たとえば、「さびしい」に sad という英語を当てたダッチャーさんの
センスは素敵だと思います。勿論、sad には「もの寂しい」という意味
もありますが、もう一つ、最終連の「仏さまはさびしいの」から、御仏
の「慈悲」→「悲」の連想喚起があったのではないでしょうか。


【前号<慈悲>はこちら↓】
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                             (竹)


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