![]() 当コラムは、『読んで得する翻訳情報マガジン』に掲載された記事原稿に加筆補正したものです。 |
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桜 |
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2002年の桜は、あっという間に咲いて、名残を惜しむ間もなく散ってしまいました。ここ大田区大森の公園も既に葉桜です。この散り際の鮮やかさとはかなさが日本人の好みに合うようです。 日本の国花は山桜。その語源を辿ると「古事記」や「日本書紀」まで遡ります。神代の巻に「木花之開耶姫(このはなのさくやひめ)」というお姫様が登場するのです。木花(桜)のように美しい姫、の意味だそうです。“さくや”は“咲く”から来ており、これ「サクラ」に転じたという説があります。 さて、我々の生活とは切っても切れない“桜”ですが、「万葉集」には、“桜”を詠んだ歌が40余首あります。しかし奈良時代、花と言えば、“梅”を指し、“梅”を詠んだ歌は100余首にのぼります。これが平安時代になると、花すなわち“桜”に変わり、「古今集」では、“桜”を詠んだ歌が100余首、“梅”は20首と逆転しています。「古今集」以降、“桜”が日本の花として定着したと言えるでしょう。 では、斎藤和英の中から“桜”にちなんだ和歌をいくつかご紹介しましょう。 【素性法師・古今集】844?-910? ◇見渡せば柳桜を I look out o'er a tangled mass 【薩摩守忠度】1144-1184 ◇行き暮れて木の下 Belated, 'neath a cherry's shade 【親鸞上人】1173-1262 ◇明日ありと思う Hope not the transient blossom shall 【本居宣長】1730-1801 ◇敷島の大和心を The spirit of Yamato's isles 中には、こんな洒落た都々逸もあります。 ◇咲いた桜に Why tie thy steed 余談ですが、馬肉はよく「サクラ肉」と呼ばれますよね。肉の色が桜色をしているところから、そう呼ばれ始めたそうですが、上記の俚謡から来たとする説もあるようです。 ところで、元禄時代に桜のイメージに一つの転機が訪れます。その時代に台頭した歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』の中で、竹田出雲が判官切腹の場面の演出に「散る桜」を用いました。以下は、その時の有名な台詞です。 ◆花は桜木、人は武士 かつては美の極みであった桜が、ここで「散る生命の花」のイメージに転化したのです。以後、桜は、武士の人生観を象徴するようになり、幕末維新の志士にいたっては、散りゆく我が生命を桜に重ね合わせていたようです。 さらに近代以降、桜は、軍国主義と結びついて歪められ、「桜のように潔く散るべし」という国粋主義イデオロギーの象徴として扱われた時代もありました。太平洋戦争中の「散華」する青年達の覚悟を歌った『同期の桜』などは、その最たるものでしょう。 貴様と俺とは同期の桜 * * *
日本中に花見の風習が広く普及したのは、江戸時代末期から明治初期にかけて、あっという間に全国に広まった染井吉野のおかげと言われますが、染井吉野は、その花期の短いことで知られています。桜を単なる美的対象として捉えず、そこに絶えず「無常観」を嗅ぎ取る哲学的嗅覚は、案外、我々現代人にも脈々と受け継がれているような気がします。 なお、世界中で花見を楽しむ風習は日本だけのようです。欧米では、サクランボを採るために桜を植えているのです。 ◆花を楽しむのは日本ばかりでないが花見を年中行事にしたのは日本だけだ |
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| 初出 2002.4.8 (竹) | |||||||||
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