中村保男著 企画・制作:竹下和男(株式会社サン・フレア)
A5・280頁 定価3,990円(本体3,800円) 日外アソシエーツ 2003.3刊 ISBN4-8169-1767-5
☆『英和翻訳の原理・技法』の雑誌掲載書評をまとめてご紹介いたします。 |
| 伊村元道氏(拓殖大学客員教授)書評 |
| 「ベテラン訳者半世紀の集大成」 |
| 大修館書店「英語教育」2003年8月号87頁掲載 |
本書は半世紀にわたって100冊近い翻訳と10冊余りの翻訳についての本を出してきたベテラン翻訳家が,古希を迎えたのを機にまとめた,翻訳術の奥義の集大成である。
翻訳は近頃では学校英語教育の守備範囲ではないとされているが,翻訳家を養成するカルチャー・センターや専門学校のコースは人気があるようで,大学でもそういう講座を設けるところが増えている。
本書は,そのような英語学習をひと通り修了した,中級程度の実力をもつ翻訳家志望者たちを対象にした翻訳技法の教則本である。
著者は,英文の語・句・節・文などの相互関係(文脈)を鋭敏に意識することを「全体感覚」と呼んで翻訳の第一原理とし,「意味内容と表現形態の均衡」を第二原理とする。まず,原文の意味内容を正確に把握するのが「解読」作業であり,その結果は「直訳」文として現れる。その「正訳」をいかにして「名訳」にまで磨き上げるか,が本書のテーマである。直訳文をさらに「和文和訳」することによって「中間訳」をいくつか作り,それを仲介として「正確な意訳」「美しい正訳」,つまりは「決定訳」にまで辿り着くのだが,その作業過程を教えようというのが本書の主眼である。
まず第一に求められるのは原文の正確な解読で,第一部の「英和翻訳技法」がそれである。そこには品詞や態の変換や頭から訳す技法,省略の秘訣,補充訳など英文解釈法と重なる部分も多い。中間訳にいかに磨きをかけて日本語らしい日本語にするかを教えるのは第二部「英和翻訳特論」で,ここでは不即不離の原理,誤訳の発見と予防,中断文の訳し方,視点や文体の問題などの一般論を扱い,第三部の「英和翻訳詳論」ではより具体的な問題点をいくつか取り上げている。それらを体系的に整理したのが表見返しにある「本書の概要」で,そこでは,I.翻訳の手順,II.翻訳文章術,III.訳法の種類,IV.日本語,特に「辞」の活用,V.結論,にまとめられている。そこに参照ページが付いているともっと便利だろう。
翻訳力とは,英文の読解力(語学力)よりもむしろ日本語の文章表現力だ,とはよく言われるところだが,本書の著者も,日本語の特性をどう生かすか,いかにしてわかりやすい日本語にするか,などに多くのページを割いているので,本書は日本語表現法を学ぶのにも役立つ。福田恆存を師と仰ぐ著者の日本語論も興味深い。
「原理・技法」というタイトルはいかめしいが,内容は話題満載,実例豊富,語り口も随筆調だから読み物としても楽しめる。 著者のもう1つの労作『新編英和翻訳表現辞典』(研究社)はすでに昨年12月号の本欄で紹介されているので,参照されたい。 |
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| 柴田元幸氏(東京大学助教授、英米文学)書評 |
| バベル・プレス「eとらんす」2003年6月号98頁掲載 |
(前略)
著者による『英和翻訳の原理・技法』は、『新編英和翻訳表現辞典』で個別に列挙されていた具体的情報や意見の背後にある、著者のより全体的な姿勢・哲学を――こういってよければ「翻訳道」を――、つねに実例を交えつつ、決して抽象論に陥ることなく説いた書物である。もちろん今度も、たとえば"He
remembered that"が「そう言えば、さっき」と訳してあったり、「graceful
は『優雅な』とか『上品な』といった漢語を含む日本語に訳されることが多いが、実感としては『しとやかな』や『たおやかな』というような和語こそこの英語にふさわしい訳語ではあるまいか」といった的確な指南が盛り込まれていたり、と、『新編……』同様、即戦力的に役立つ
tips が満載されている。
〜(中略)〜
この本の最大の値打ちは、やはり、そうした有益情報を根底から支えている、名翻訳者の豊富な体験に裏打ちされた翻訳哲学が、きわめて明快に開陳されていることである。その哲学の核を僕なりにまとめるなら、一方の極に厳密な構文分析を据え、もう一方の極に文脈や常識への目配りにつねに留意する「全体感覚」を据えて、翻訳というものを、つねに複数の都合を按配しつつ、しかし唯一の正解をつねに夢見ながら携わる営みとして捉える、といったようなことだろうと思う。
(後略) |
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